第284章

 前田南は眉をひそめた。だが、望月琛は帰ろうとしない。それどころか仕事という正当な口実を使われては、拒む術もなかった。

「……わかったわ。入って」

 仕方なく南は道を譲り、望月琛を部屋へと招き入れた。

 すぐにくるりと背を向ける。彼のことなど一秒たりとも見たくないと言わんばかりに。彼女は腰を屈め、スーツケースを開くと、目的の書類を探し始めた。

 南の部屋は一階に割り当てられていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、彼女の白磁のような横顔を照らし出す。伏せられた長い睫毛が落とす陰影が、南の感情を静かに隠していた。

 望月琛はその姿に見惚れ、意識を奪われていた。南が手にしていた契約書を彼の...

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